AWS顔識別とRaspberryPi連携による体温記録システム
1.プロジェクト概要
ねこまた社内向け検温システム開発プロジェクト
新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に、社員や来客者の検温とその記録を社員が手動で行っていました。この一連のフローを自動化し、社員の負担を軽減することを目標としたプロジェクトです。
2.背景と課題
従来の検温から記録までのフローには、以下の2つの課題がありました。
1.社員の出社時や来客時に、社員が玄関まで出向いて検温を行う必要があり、特に出社時間帯には検温待ちで玄関が混雑する。
2.検温結果は検温を行った社員がその都度Slackに記入しており、記入漏れが発生するリスクがある。
これらの課題を解消するため、本プロジェクトを立ち上げました。
3.開発内容
1.検温機能
・超音波センサーで検温者の顔とシステムの距離を測定し、一定距離に近づくと温度センサーで体温を計測します。
・ポイント:距離を一定に保つことで、体温計測の精度を安定させました。
2.顔認証機能
・体温計測時に顔写真を撮影し、AWS S3にアップロード。その後、AWS Lambdaを経由してAWS Rekognitionで顔認証を行い、人物を特定します。
・ポイント:AWS Rekognitionにより、高精度かつ高速な人物特定を実現しました。
3.検温結果通知機能
・検温結果(体温と顔認証で特定した人物名)をSlack APIを用いて社内のSlackに自動投稿します。
・ポイント:検温結果の自動投稿により、記入漏れを防止しています。
4.開発プロセスと体制
開発はハードウェア担当とソフトウェア担当の2名体制で進めました。開発のフローは以下の通りです。
1.技術調査
・顔認証や非接触型検温の手法について調査を行いました。
2.ハードウェア・ソフトウェア選定
・調査結果を踏まえ、適切な動作環境、センサー、外部サービスを選定しました。
3.設計
・ソフトウェアは処理フローの定義と画面設計を行い、ハードウェアは回路設計やセンサー取り付け用の治具設計を行いました。
4.製造
・設計に基づき、ソフトウェア側はコーディング、ハードウェア側は回路の実装と治具の製造を行いました。
5.テスト
・各フェーズで都度動作確認を行い、設計通りに動作するかを検証しました。
このようなプロセスを経て、社員や来客者の検温を自動化し、社員の負担軽減を実現するシステムを構築しました。
5.課題と解決策
開発中には以下の課題に直面しましたが、いずれも対応策を講じて解決することができました。
課題1:非接触型温度センサの距離特性
非接触型温度センサは、計測対象との距離が近いほど温度が高く、遠いほど低く測定される特性があります。そのため、温度計測時にはセンサとの距離が一定でなければ、計測結果にばらつきが生じるリスクがありました。
解決策:超音波センサで距離を一定に保つ
超音波センサで顔との距離を測定し、一定の距離に近づいた時に体温を計測する仕組みを導入しました。これにより、安定した体温測定が可能になりました。
課題2:センサの固定方法
超音波センサ、温度センサ、Raspberry Pi用外付けカメラはすべて有線接続されており、仮固定しただけでは配線の動きによってセンサが筐体から外れる問題が発生していました。
解決策:センサ固定用治具の開発
各センサを確実に固定できるように、3DCADで治具を設計しました。社内の3Dプリンターで製造した治具を微調整し、センサをねじ止めすることで、安定して筐体に固定できるようにしました。
課題3:顔認証技術の選定
当初はRaspberry Pi上に顔検出および顔認証モデルを配置する手法を検討していましたが、実際に動作させたところ、処理速度が想定より遅く、実用に適さないことが判明しました。
解決策:クラウドサービスの採用
追加調査により、クラウド上での顔認証が可能なサービスが複数見つかりました。既に社内導入実績のあるAWSから、顔認証に特化したAWS Rekognitionを採用することで、迅速な人物特定を実現しました。
これらの課題への対応により、開発プロジェクトをスムーズに進めることができました。
6.開発の成果と効果
従来の検温フローでは約120秒を要していましたが、本システム導入により約5秒に短縮することができました。
これにより、出社時間帯の検温待ちによる玄関の混雑が解消されました。また、検温結果の記入漏れも自動化によって防止され、記入を担当していた社員からは安心の声が上がっています。
さらに、お客様が来社された際は最初に本システムで検温していただいており、弊社の事例紹介としても積極的に活用されています。
7.成功のポイント
開発要員がそれぞれの知見を活かし、適材適所で開発を進められたことが、プロジェクト成功の大きな要因であったと感じています。
・顔認証の技術調査を担当したメンバー
クラウドサービスを使わない顔認証の手法についても調査を行い、採用には至らなかったものの、顔認証技術への理解が深まりました。
・AWSを初めて使用したメンバー
AWSのサービスが幅広い守備範囲を持つことを実感し、今後のプロジェクトでも積極的に活用していきたいという意欲を示しています。
このように、各メンバーが新しい学びを得ながら取り組めたことも、プロジェクトの成功に貢献しました。