家具に設置されたセンサーのデータをクラウドでリアルタイム監視
1. プロジェクト概要
家具センサーからの状態表示システム構築
地元大学のPoC(概念実証)案件として、家具センサーによる生活・健康状態の「日常人間ドック」システムの開発に取り組んでいます。
このシステムは、いつでもどこにいても自分や家族の生活や健康状態を把握でき、多世代間で自然な応援と支援が得られるさりげないセンシングを目指しています。
今回の開発では荷重センサーを装着したオフィスチェアにより、オフィスで働いている人の日々の腰痛悪化を高い精度で予測することが可能であるかどうかを実験するシステムの開発を行いました。
2. 背景と課題
日本人の10人に1人が腰痛に悩んでおり、正しい姿勢を保っていても長時間の着座で腰痛が悪化する場合があります。
もし腰痛の発生を予測できれば、予防のためにストレッチやエクササイズといった行動が可能になります。
この兆候を荷重の変化によって見出すことができるかを研究するために、荷重変化を記録するシステムを構築することになりました。
3. 開発内容
荷重センサー制御側
RaspberryPi、C言語、JavaScriptなどによって荷重移動を可視化(運動を促すためのゲームも開発)、また、取得された荷重情報はネットワークを通じてAWS上に記録され、後の研究のためのデータとして収集されました。
4. 開発プロセスと体制
開発は、まず大学の先生と打ち合わせを行い、試作品を作成することからスタートしました。
荷重センサーの選定にあたっては、サンプルプログラムを作成してセンサーの特性を可視化し、先生とともに最適なセンサーを選定。その後、選定したセンサーをもとにシステムを構築しました。
短いスプリントで成果物をブラッシュアップしていくアジャイル開発に近い方法で進め、最終的に荷重データを十分に収集できるシステムが完成しました。
5. 課題と解決策
課題は、荷重データをどの時間間隔で取得するかでした(後からデータ解析を行うため、解像度が低いと解析が難しくなります。
可能であれば高解像度で取得し、後から必要に応じて間引くことが望ましいと考えられました)。
また、高解像度のデータを取得することで送信データ量が増えるため、ネットワークがその負荷に耐えられるかも検討が必要でした。
これらの課題は、データ取得の時間間隔やデータ送信の限界点を見極めながら、度重なる調整を行い、処理の高速化とデータ圧縮機能をシステムに組み込むことで解決に至りました。
これこそPoC案件の醍醐味だと思います。
6. 開発の成果と効果
本システムで取得された荷重データを大学の先生がAI解析した結果、AI技術を用いた信号処理と深層学習により、着座時の細かい体の動きに共通するパターンが発見されました。
このパターンが消失する日は、高確率で腰痛が悪化することが明らかになりました。
本研究は、規則性に乏しい時系列生体信号からAIを活用して生理学的に意味のある事象(腰痛)を予測できることを示す重要な成果です。
今後、ウェアラブル機器などによる日常的な生体信号のセンシングが普及することで、その利用価値が大きく高まることが期待されます。
7. 成功のポイント
大学の先生方との信頼関係と、思いついたアイデアを即座にプログラムに反映して試すというトライアンドエラーの積み重ねにより、本システムは高精度なデータ収集を実現できたと考えています。
また、C言語による組み込みレベルでの実装から、JavaScriptを用いたブラウザ上でのGUI実装まで、異なる技術レイヤーを一貫して対応できる体制を整えたことも、成功の重要なポイントであると考えます。